70歳を迎えた父への思い出と笑いの瞬間
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ちょっとズレてて、デリカシーがない父

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父が古希を迎えた。
70歳という節目を祝うため、久しぶりに家族が集合した。
今ではほぼ白髪で、すっかりおじいさんだ。

私はふと、これまでの父との思い出を振り返っていた。

小さいころからどこか“変わっている”父。
新しいアイディアを考えるのが好きで、気にしいで、少しズレている。

顔合わせでの「質問事件」

婚約者(いまの夫)と、私の両親との顔合わせのときのこと。
和やかな雰囲気で会が進んでいたその最中、父が突然こう切り出した。

「何か、私たちに質問はありますか?」

夫は困惑して、「いや、特には…」と答える。

いや、そうじゃない。
質問するのはあなた方でしょう、と心の中で突っ込んだ。
婚約者側から言うならまだしも、婚約者の両親への質問って、何だ。

さらに、父は続けた。

「この子、変わってるでしょう?」

いや、あんたに言われたくない。と、思った。

雨の日のボウリング事件

もう一つ、鮮明に覚えている思い出がある。
私が小学生のころ。
雨が降っていたので、「今日はボウリングでも行くか」と父が言い出した。

ボウリング好きの父は、やる気満々。
立体駐車場に車を止め、小走りでボーリング場に向かった。
鉄製の通路に、雨が打ちつけている。

突然、父が投球フォームを披露しようとした。
手を後ろに引き、勢いよく前に振り出した瞬間──

ツルッ。

投球フォームそのままに、右半身が水たまりにダイブ。

一瞬時が止まったようだったが、その後は笑いが止まらなかった。

あのときの光景は、いまでも脳裏に焼き付いている。
右半身びしょびしょで、ボーリングしている姿も。

下着泥棒事件

こんなこともあった。
当時、私たち家族はマンションの1階に住んでいた。

ある日、姉と私の下着がなくなった。
「盗まれたのかな?」
「いや、お母さんがどこかにしまっちゃったのかも?」

確証はなく、真相はわからないままだった。

ところが数日後。
ついに、洗濯バサミがじゃらじゃらついている、アレごとなくなった。

「やっぱり盗まれたんだ!」
「まだ2回しか着てないのに!」
女3人で大騒ぎしていた。

すると、リビングに父がやってきて、何気なく言った。

「ねぇ、俺のパンツ知らない?」

どうやら犯人は、父のパンツまで持っていったらしい。

一瞬静かになり、その後どっと笑いが起きた。
犯人への怒りよりも、笑いが勝ってしまった。

デリカシーがない父

父は、自分では「気が利くほう」だと思っている。
でも、どういうわけか肝心なところでデリカシーがない。

たとえば、私が出産した直後。
遠方から両親が遊びにきて、父と私とで写真を撮ったあと。
一緒に画面を見ながら、父がぽつりと言った。

「なんか、みき、でっかくなったね。」

当たり前だ。産後なのだから。
こちとら、13キロも増えている。

今年もあった。
3歳になった娘を連れて、久しぶりに実家へ帰省したときのこと。

私のことをまじまじと見ると、
「なんか、太った?」と言ってきた。

最近、偏食気味の娘の食べ残しを食べるからか、3kgくらい増えていた。
思わず、「いらんこと言うな!」と言い返してしまった。

母は「言わなくていいものを・・・」とばかりに、失笑していた。

帰省の時、私が気をつけるべき相手は母ではなく、父なのだ。

真面目で働き者の父

そんな父にも、いいところはある。

子どものころ、毎週日曜日には、車でいろいろなところに連れて行ってくれた。
母は当時免許がなかったので、ドライバーはいつも父だ。

ショッピングモール、遊園地、温泉地──

翌日は仕事なのに、夕方まで車を走らせる。姉妹は後部座席で寝ている。
母もたまに助手席で寝ている。

ふと目覚めると、キシリトールのガムを噛みながら、安全運転で走行している父の姿があった。さすがゴールド免許だ。

平日は「まだ夜では?」と思う時間に起きて、朝刊を読み、
スーツを着て出社していた。小型ラジオがお供だ。

寝坊したり、朝食をだらだら食べたりする娘とは違い、ほとんど時間の狂いはない。
たまに、トーストのマーガリンをネクタイにこぼして、着替えるときは別だ。

会社を休む姿を、ほとんど見たことがない。
子どものころは、それが“普通”だと思っていたけれど、
社会人になってわかる。
あれは並大抵のことではなかった。

なんだかんだで、憎めない父

気にしいの割にはデリカシーがなく、ちょっとズレている。
でも、どこか憎めない父。

父は、古希祝いの席で、姉夫婦と私にこう言った。
「私が唯一誇れることは、夫婦仲がいいことです」

両親のように、これからも仲の良い夫婦でありたいと思う。