娘の前で泣いた朝
その朝、娘はなかなか起きなかった。
衆議院選挙の翌日。
私は布団の中でスマホを見ながら、選挙結果を追っていた。
勝った、負けた、議席数。
数字や速報を追ううちに、頭の中がざわざわしていく。
時間になって声をかけると、娘は全力で拒否した。
毛布にくるまり、顔を埋める。
「起きない」という意思だけは、よくわかった。
私はいったん娘を置いて、自分の朝食や身支度を進めた。
コーヒーを入れて、顔を洗って、服を着替える。
それでも、起きない。
結局、抱っこでリビングへ連れていった。
そこから、娘のスイッチが入った。
「なんで?」
「なんで今なの?」
「なんでそれしなきゃいけないの?」
ありとあらゆることに、なんで?が飛んでくる。
普段なら受け止められる問いが、その日はなんだかつらかった。
私の中に、余裕がなかった。
仕事の連絡を見始めると、さらに悪化した。
チャットやメール。
普通の内容なのに、今日はなんだかイライラする。
そのくらい自分でしろよ…おっと、これはまずい。
そう思って、画面を閉じた。
でも、娘は準備を進めない。
相変わらず、一つ一つに突っかかる。
私は、キレた。
強い口調で、叱った。
娘は泣いた。
その瞬間、あっ、もうダメだと思った。
私の心の表面張力が、保てなくなった。
一方で、「ここで私が泣いたら、娘はどう反応するんだろう?」
そんな好奇心もあった。
私は泣いた。
わーんと泣いた。ちなみにアラフォーだ。
すると、娘は泣き止んだ。
私の顔をじっと見たあと、怒ったり叫んだりしながら、着替え始めた。
ああ、娘なりに前に進もうとしている。
「iPadでも見る?」
私は、そう言って、娘に差し出した。
保育園と会社に遅刻の連絡を入れた。
おのおのYouTubeを見ていた。
ソファにくつろぎながら、現実から離れる時間。約1時間。
そのあと、一緒におやつを食べた。
空気が、少しやわらいだ。
娘が「郵便ポストに郵便物を出したい」と言った。私はそれを快諾した。
保育園では、やや不安定だった。
「家にいたい」と、本音も出ていた。それでも、娘は登園した。
私は、カフェでもう一休みしてから、仕事に戻った。
仕事を終え、夕方迎えにいくと、そこにはいつもの娘がいた。
何事もなかったように、今日あったことを話しながら、靴を履く。
娘を自転車の後ろに乗せて、風を切って帰った。
完璧な母じゃなくてもいい。泣いたっていい。
大切なのは、また戻ること。
揺れて、崩れて、整えて。
そうやって日々を、積み重ねていけばいい。

